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遍路紀行 15日目 (1997年3月11日) 晴れ

行程

久礼の大谷旅館~37番岩本寺高岡郡窪川町)~幡多郡佐賀町拳の川の佐賀温泉旅館まで  歩行距離 30キロ (延べ458キロ)

この日の出来事など 

1.昨夜の豪雨、目覚めれば今朝は嘘のような快晴である。南無大師遍照金剛。7時勇躍大谷旅館出発。昨日と変わり今朝は老奥さんの見送りを受ける。その際100円の賽銭お接待をいただく。この旅館の心の籠った料理と接遇ぶりはこれまでお世話になった旅館の中でも3月8日投宿の高知やさんと並び双璧である。静まり返る朝早い漁師町の古びた町並みを抜ければ、早くも国道56号線が手ぐすね引いて待っていた。56号線は標高ゼロに近い久礼の港町を抜ければ、海岸線から山の高みへ一直線の急登を始める。山中の急坂を登る大型トラックの凄まじいまでの流れ。片側一車線、車道のみ歩道なし。静から動への一瞬の間の転換だ。 排ガスの煙幕の中を全身汗みどろだ。昨夜の豪雨で湿度が非常に高い。側溝を歩道代わりに,崖に身を擦り付けるようにして歩く。国道とは言えヘアピンカーブの連続だ。運転手が小生を視認し易いようにカーブの外側の側溝に体を移したいのだが、横断が怖い。カーブで見通しがきかないから、数秒も要しない横断であっても急カーブの崖の陰から車が襲ってくる。警笛。トラック運転手の眼。乞食遍路を睨んでいるのか。とにかく難儀な歩きであった。とかく格闘するうちに国道は山を登り切り、山の中腹を縫うように走る平坦な道に変わっている。谷越しの向こう側に小生が辿る国道が見える。

2.午前8時頃から9時にかけて久礼第1,2,3,4トンネル通過。いずれも200メートル位で短いが、大型車の通行依然激しいため、油断は禁物だ。第4トンネルを抜けてしばらく直登すると七子峠だった。9時過ぎ。汗だくの2時間の修行は終わる。土佐は修行の道場。峠からは、久礼の町並み、久礼の内浦(入り江)や、たった今修行してきた56号線が眼下に見える。七子峠は中土佐町と目指す37番岩本寺のある窪川町の分岐点である。一番高所の見晴らしよき場所に”霧の峠七子茶屋”なる売店食堂あり。霧で有名な霧の峠は、今朝は素晴らしい見晴らしの明るい峠であった。56号線はここから長い下り坂となって窪川町へ向かう。

3.午前11時過ぎ、窪川町仁井田という56号線沿いの静かな町の外れで”ナポレオン”という名の鄙には洒落た店構えのケーキ店に出会う。ケーキとは無縁の遍路ではあるが、恥ずかしながら思わず駆け込みシュークリームとチーズケーキを注文する。店の若奥さんが奥より椅子を持ち出してきて座って下さいと勧めてくれる。喫茶店ではないのでコーヒーの代わりですと日本茶のお給仕。ケーキ代450円。安くて、おいしくて大変幸せそうに見えたか小生の事をいろいろ尋ねてくれる。横浜からの遍路と知って彼女も夫と埼玉県の狭山市に住んでいた事、故郷の当地に戻ってこの店を開いたなど暫く世間話をする。礼を述べて再び国道に戻る小生を態々国道にまで出て見送ってくれる。国道に面し、周りに何もないから注意して通れば探し当てられる店である。いつの日にか再見?

4.影野、仁井田を過ぎれば土讃線が国道の右や左に並行して走りだす。12時、呼坂トンネル横のうどん店でうどん定食400円を食す。客はトラックの運転手ばかりで店員や他の客とも皆顔なじみの様子だ。12時25分、37番岩本寺を打つ。広い境内では近所の主婦らしい女性たちが世間話に興じている。格好の社交場か。寺の裏手を土讃線の列車が轟音をあげて通過していった。。そういえば窪川駅は近くにあった。

5.今夜の宿泊先の佐賀町を目指し再び国道56号線を進む。またまた長い登坂道路だ。いささかうんざりである。横をビュンビュン車が走る。道幅が広いので怖くない。窪川町峰の上というところを通過。また峠の見晴らしポイントである。食堂やレストハウスが点在しているが、いずれも人の居る気配なく、空き家の様子。これより長い下り。間もなく佐賀町域に入る。全くの山中だ。150メートル程度の片坂第1,2トンネルを抜けると国道は更に急坂となって下ってゆく。山はいよいよ深まっていく。ここは山国?たしか鯨ウオッチングで有名な海の町のはずだが。海は一体どこに?ようやく平地に下りても56号線は今度は田園の中を悠々と走る。岩本寺より今夜の宿泊先までは10キロ強。南国の強い日差しを浴びて歩くのは、特に午後の疲れた体には厳しい。炎天の田んぼの中の国道上でやっと人に出会えた。自転車に乗った郵便配達の男性だ。堪らず佐賀温泉旅館までの道のりを聞く。なんと、あと1キロ、指呼の間だ。今日は暑さの上に湿気が高いため疲れがひどい。気息奄々。旅館らしき建物が前方田んぼの中にみえてきた。

6.午後3時過ぎ佐賀温泉着。ここは佐賀町郊外。周りは田畑。56号線に面した土産物店兼営の食堂レストハウスだが、設備も新しく清潔で洒落た和風旅館であったのは意外。一泊二食7000円。50代ぐらいの男性支配人が素朴で親切なのも嬉しい。春の小川の童謡を思わせるきれいな小川が旅館の裏手を流れている。ここに洗濯場があり洗濯機も置いてある。明るい春光の下,洗濯だ。若い女中さん達がニコニコ笑顔を見せながら声をかけてくれる。小川にはめだかも泳いでいるそうな。風呂は天然温泉の大浴場だ。小生の為に5時のオープンを4時に早めてくれる。勿論、小生一人だけの大浴場。食事はこれも大食堂でこれまた小生一人きり。なんだか申し訳なし。寝る前8時、再度入浴。苦あれば楽あり。