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遍路紀行 9日目 (1997年3月5日) 快晴

行程

民宿とくます~24番最御崎寺(ホツミサキジ 室戸市室戸岬)~25番津照寺₍シンショウジ 同・室津)~26番金剛頂寺(同・元乙)~金剛頂寺山麓の民宿うらしままで   歩行距離 26キロ (延べ254キロ)

この日の出来事など 

1.室戸は日出ずるところ。民宿とくますの小生の部屋は真東の太平洋に直面し夜明けの日の出は壮観だと教えられていたので、カメラを構えて待つ。朝6時20分、天気晴朗、水平線から昇る荘厳な日の出に我を忘れる。

2.7時半とくます出発。室戸路は既に菜の花満開。南国の春は流石に早い。国道55号線は相変わらず自動車の往来少ない。トラックは滅多に見かけない。歩を進める。ややあって、海上遥か海に寝そべっているような陸影が小さく見えはじめてきた。地図から判断して、あれこそ室戸岬だと確信する。今日は無風、聞こえるは波音と鳶の鳴き声のみ。更に進む。陸影はいよいよ大きく、今や目前に迫る。

3.10時過ぎ、室戸岬に着いた。巨大な弘法大師の立像が待っておられた。国道を海側に下りると室戸岬遊歩道があった。ここには大師ご修業の数々のご聖跡がある。断崖絶壁の山側には御蔵洞と呼ばれる洞窟がある。ここで大師は虚空蔵求聞持法を会得されたと言い伝えられる。室戸では最も聖なる修行場である。奥行き数十メートルの洞の奥から入り口を臨むと海と空とが額縁の中の絵のように浮かんで見える。若き日、空海と名乗られるになった由来とか。

4.10時半、24番最御崎寺登山道口より登り始める。室戸岬の先端は台地状の高地が太平洋に転がり落ちた絶壁で囲まれており、最御崎寺はその台地状の先端にあるので1キロほどの急峻な崖路を登らねばならぬ。勿論いまはジグザグカーブを描いて緩やかに登ってゆく自動車道もあるが、遍路は矢張り昔ながらの危険な遍路古道を行くのが常道であろう。蝮注意の立て札が半分朽ちかけてたっている。10時50分、24番最御崎寺を打つ。室戸岬灯台は境内より海に向かって1分程のところにある。ついに岬に立った。見渡せば太平洋。一望無辺、遮るもの無し。

5.25番津照寺へ向かう。海に対面する町寺ゆえ、室戸の海辺まで下りねばならない。24番への登りは古道の難路であったが、25番への下りは室戸スカイラインという快適な観光ドライブウエーを歩けばよい。緩やかな下りであるが、距離は長い。しかし、歩きながらの展望は抜群。眼下に間もなく通過する室戸の津呂漁港とその先西寄りに25番津照寺のある室津漁港が見える.。 

 津呂の港近くの”レストハウス”という喫茶店でうどん定食の昼食。2階の食堂の大窓から太平洋がドンと眼に飛び込んでくる。豪快。さて、25番津照寺のある室津は土佐の国司であった紀貫之が”土佐日記”に海上交通の要衝として紹介している歴史的にも有名な港であるが、昼下がりの漁港は眠ったように動きが無い。午後1時、津照寺を打つ。納経所の寺男さん、何か怒ったような怖い顔つきで黙々と筆書し、朱印を押している。言葉を掛けたいが、君子危うきに近寄らず。はやばやと納経所を退散する。

6.津照寺の石段からは海がまじかによく見える。海の守り寺として船乗りの信仰が篤い。寺周辺も人の往来が賑やかである。門前の魚屋さんの前で70代の老女に呼び止められる。この遍路行で最初のお賽銭の接待である。100円玉を一つ頭陀袋に入れていただく。通行人の多い町中の路上でのお接待を体験して、托鉢行脚の僧侶の心境とはいかがなものか自問自答。南無大師遍照金剛三度唱え、合掌する。

7.室津と別れ26番金剛頂寺へ。途中、遍路のシンボルである白衣と白ズボンを自宅へ送り返すことにした。この暑さでは厚手のウールシャツの上に白衣を着たのでは汗まみれになるし、ウールシャツを脱いで白衣を上着代わりに歩くのも寒い。白ズボンはすぐに汚れてしまう。実用的でないので、思い切って白装束はやめる事にした。異端とおしかりを受けるやもしれぬが、菅笠、金剛杖、頭陀袋が遍路のしるしだ。通りがかりの洋品店で白ズボン代わりのジーンズを求める。店員の娘さんが最優先でズボン丈の調整、ミシン縫いをしてくれる。店員さん達総出で遍路行が成就するようにと励ましてくれる。ここは歩き遍路銀座の地ではあるが、歩き遍路は珍しいとの事。

8.午後2時20分、室戸市元の民宿うらしまに着く。26番金剛頂寺へは片道2キロの急坂遍路古道を往復して宿に戻ってくればよいので、既に身体の一部分化した10キロのリュックを宿に預けて身軽に金剛頂寺へ向かう。しかし、調子が狂ったのか却って足が重い。喘ぎが激しい。暑さの為なのか。脇横を団体遍路バスがエンジン全開で疲れ切った遍路に排気ガスを浴びせて次々に追い越してゆく。ああ、車に乗りたい。どうして四国の霊場はこのような山寺が多いのか。町寺と聞くと、気持ちまで軽くなる。午後2時50分金剛頂寺打つ。

9.金剛頂寺より室戸岬方面が展望できた。室戸岬、津呂、室津の町々がよく見える。さらば室戸!明日よりは四国二大岬のもう一つの岬である足摺岬を目指すことになる。民宿うらしまの庭先は海亀が産卵する浜辺で有名である。従って、宿の名前もうらしまか。一泊二食5500円。同宿はマイカー遍路の夫婦一組のみ。